大学教員への一歩


先日,研究室配属の前の学生から質問を受けたため,個人的な感覚を書いておきます.

「大学教員を目指すには,東大を筆頭とする旧帝大の大学院に進学したほうが有利なのか」

まずこれがあります.

有利かどうか?…実に個人差がありますが,まず最も前提となる点を忘れてはいけないでしょう.

「自然科学系の研究が可能なレベルの大学であれば,どこに在籍していても,素質があり継続性があり希望するなら大学教員になる」

心配せずとも,小細工なしで,なるやつはなる.
なれないやつは,小細工しても,なれない…いや,わかりやすいです結構.

何か勘違いしている気もしますが,特に准教授以上の教員になるような人間は,ある程度,勝手に育つことが多いです.
いや,確かに,研究室で育成を受けるわけですが,それに抵抗感が少ない.
そして,求められるレベルにいない自分を恥とする.無駄な言い訳はしません.

環境に左右されることは少ないでしょう.ビッグネームの教授に付き従わねば教員になれない,ということはまずない.
理科大であれば,まったく問題ないのでは?と感じます.

なぜ,旧帝大で博士号を得た人間が教員になる割合が高いかというと,単に,そういう素質のある人間が,最初から多いだけ.
それは当たり前の話でしょう.そういった素質を持って大学受験を通る割合が多い.

一般的な研究室に在籍すれば材料はいくらでもあるのです.その材料を使うか使わないか,それだけ.
・学術雑誌は読み放題.
・SciFinder使い放題.
・実験の環境に極端な格差はない.
・手元にあるテーマを活かすも殺すも本人次第.
・研究室のボスが論文さえ投稿するなら,問題なし.

では,旧帝大などの大学院に在籍するメリットは何だろうか?ということです.
・攻撃力の高い研究室メンバーに囲まれるため,耐性がつく.
・助教までのコネは,あるといえばある.

デメリットは何でしょうか.
・環境が大きく変化して,性格的にあわない場合がある.
・攻撃力にやられてしまう.
・自信喪失のおそれ.
・コネを利用するには,何らかの形で,教授のお気に入りになる必要がある.そのハードルが高い.誰でもコネを使えるわけではない.むしろ,モブと化してしまうリスクも高い.

つまり,旧帝大などに大学院で移動する最大の恩恵の1つである,コネの獲得が簡単だと思っているならもう終わりという,困った前提にあると個人的には思います.
教授,准教授に気に入られるかどうか,どこで気に入られるかなど,まったくわかりません.
ありのままの自分で無理なら望みはないと思ったほうが良いかと…着飾るだけ無駄です.ボロが出るので.

それ以前に学生とボスの攻撃力の前にやられてしまう可能性がある.
半端ない攻撃力ですが本人たちはそれが普通だと思っているので,学生から言えることなどありません.

また,研究室の風潮によっては「これくらいできないと」という閾値が決まっていて,それがむしろ門戸を狭めているケースも.
つまり「勉強できないやつは駄目」という前提に潰されてしまう.

研究者には勉強できてもなれないのですけどね.学生時代,勉強できなかった優秀な研究者はけっこういます.

勉強という意味ではどの大学にいても実は同じです.
また,向上心が高い研究室メンバーに囲まれていた方が成長しやすい,と考えるかもしれませんが,それは意外と関係ないでしょう…
つまり,教員になるような学生は周囲の動向など気にしていないことが多いからです.
周囲がさぼっていても知ったことではないので.

周囲に流されるなら,その程度.もともと教員向きの素質が内在していなかったのです.
他人に,自分が教員になれるかなれないかを依存する時点で向いていないとも言えます.
こんなこと言うと元も子もないですが.

結論.

他大学の大学院に移動する原動力として「教員になりたいから」は不適切.
つまり「大学教員になる上で効率が良い方法」を模索している時点で,先が知れているということになります…
現実的には「大学教員」という肩書きになりたい,これでは無理でしょう.

考え方が逆だと思われる.
自分という器に大学教員という肩書きが入るだけです.
大学教員という器に自分を入れたいという考え方だと伸びしろもたかが知れています.

他人に踊らされない自主性,根性,継続性があれば,助教になることはそこまで難しくはないかもしれない.
能力の有無以上に研究する上での常識の有無.

あとは,場所にこだわるとだいたい駄目.
実験台,NMRくらいあればあとはなんとでもすると思えるなら.

場所にこだわると駄目ということは,わざわざ旧帝大に行かなければ教員になれないという発想が駄目?
ある程度は効率を求めたい気持ちもわかるので駄目とも言えないでしょう…

問題は助教の上.特にPI(独立研究室運営者)になれるか,なれないか.
なれない確率がけっこう高いです.
たとえば助教は任期1〜10年くらい.ただし5年で講師や准教授への昇進の目処が立たないと生き残りの望みは薄い.
つまり,だいたい5年で助教の椅子は空く.
PIは定年までと考えるとだいたい20〜30年は椅子が空かない.

今後は有象無象の大学が消滅していくことが予見されるのでさらに椅子は減ります.

それでも構わないというのであればあとは自己責任です.

努力以外に道なし.

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