研究難民

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来年度の雑用は,多分,かなり減ります.というのは,2013年度と比較しての話ですので,徐々にベースラインが上がってきております…

研究の方針も,現行メンバーについては,道筋がほぼ確定してきましたので,ようやくスタートかなとは思いますが,そう単純な話でもありません.

自力で取り組んでいた初期発掘が終了し,当たりをつけたので,その後を学生のパワーにお願いするという段階.自分の細腕では,完全に掘り起こすまでに時間がとんでもなくかかってしまう.実際には,学生と一緒に掘り起こして,削りだしにかかっても,2〜3年くらいかかるのですが…自力で作業していたら,10年くらいかかりそう.

 

では遠藤は何をするかというと,基本的な設計方針を指示することと,次の採掘場所の当たりをつけることですかね.

我々のグループは,規模のわりに,検討していることが多いとは思います.全員で6人の場合,多くは1つのコンセプトに対するアプローチとなりやすいかと.そのような「徹底的な検討法」は,多くの成果につながりやすいと思いますが,それでは個人的に目指すものに近づくことができないのです.人生は短い.

たとえば,不斉共役付加反応について徹底的に取り組むと,早々に成果になるはずですが,究極目標をサポートする一部に過ぎないという我々の考え方を満たすことができないので,そればかり検討しているわけにはいかない…けど,昨今の大学研究環境とはマッチしないのかなとも感じてきました.

 

たとえば,STAP細胞は,その到達により科学地図が激変するから,STAP細胞の作製法1つに絞り込んで研究すべき,となるかもしれません.

しかし,1発大当ては現代の研究環境が許さないのです.有機化学の場合,第一線で戦う土壌を作り上げるために,3年である程度は「飛ぶ」必要があります.決して「5年,10年では研究者として駄目」ということはなく,結果的に素晴らしい成果を上げることが可能なら問題はないのでしょう.

ただ,10年も経過する前に居場所がなくなってしまうことがあります.下の世代からの突き上げも受けますしね.

 

新年度から助教となり,独自研究を立ち上げたいと試みる方々もいることでしょう.このブログ読者の数は正確にカウントしていないため,どれほど需要があるか,わかりませんが,下記を参考にしていただきたいと思います.

 

1. 任期が短い

ちなみに若手登竜門となる「助教」は何年程度が妥当でしょうか.人によっては,凄まじい成果を上げていても助教,ということはありますので,一概には言えません.

ただ,仮に昇進可能な環境であるなら目安は「最長10年」でしょう.個人的に目指していたのは「5年」で,遠藤の場合,昇進は不可能でしたが,転出により偶然うまくいきました.

 

ちなみに,任期なし助教の公募は,10年ほど前から急激に減り,5年ほど前から復活してきました.まだ任期つき助教は少なくありませんが「3年」「5年」「10年」あたりが区切りかなと感じます.

遠藤の場合,良かったのかどうかわかりませんが「任期3年」のため,3年で飛んでいなければ研究者としての「死」が待っていた危険性さえあります.つまり「死」を迎えない場合は「第一線にいる」ということと等価でした.

 

環境が許すなら「10年計画」でも良いのかとは思いますが…

壮大なテーマを3年で.よほどのバックグラウンドを持っているか,奇跡的な発見が必要です.

そのような「環境要因」では研究者としての下地作り失敗にもつながってしまいます.そのため,自力で「0を1」にするような成果を出さねばなりません…自分個人の究極目標と合致していないとしても.

 

1)成果を多く出さねばならないため成果を出しやすい既に芽の出たテーマに傾倒してしまう,これは仕方ないと割り切って諦めても良いのかとは思えましたが…

 

2. インパクト

これは遠藤個人が感じていることです.実は,自分が立ち上げた研究は,たいしたインパクトがないのでは,という恐れです.

Hot Topicに波乗りしているなら,そういうおそれは少ないでしょう.ある一大勢力に属している場合は「ここまで達成」「ここから困難」が明らかです.「ここから困難」に挑めばインパクトは既にあります.問題が既出であれば,その問題を克服する何らかの戦略を練り上げることになります.

 

しかし「ここまで達成」も何もない場合は,インパクトも不明です.インパクトがない研究を5年も続けると,周囲からは注目されません.しょせんは他人事なので,どうでも良いと思っている人が多いとは思うのですが,問題は「次の椅子がなくなる」ということでしょうか.周囲の評価は,教授に到達するまで特に重要です.その評価は,その大学の学科内での話ではなく,少なくとも日本国内の同じ領域で,複数の方々に認知されている必要があります.

 

1つの「壮大なテーマ」が成功する確率は低いです.そのため「保険」をかけて複数のテーマに最初は取り組みます.そのなかから1つの当たりを見つけると今度は安心して「徹底的に網羅」するようになります.これが実は,負の要素を含んでいるのですが…

 

やはり研究者といえど人間,成果の芽が出ると,物凄く安心します.有機化学においても,過去には「とりあえず混ぜれば何か新しいことが起きる」と言われていた時代ではなく,何を混ぜても何も起きないか,既に知られていることしか起きない,その2つばかりです.そのため「何か新しいことが起きた」とき「これで足場を固めよう」と考えます.

これが30代のことです.

 

30代で,うまく成果につながる1つの戦略に徹底する流れに向かうと,思考停止に陥ります.その「1つ」を見つけるまでに,実際は「大量の試行錯誤」を繰り返しています.その試行錯誤が「1つ」を見つけると停止します.

「1つの発見」から成果を出すための「1を2」にするマイナーチェンジを繰り返すと,「大量の試行錯誤が停止」したことで,40代から,どのようにして大きなパラダイムシフトを起こせば良いかわからなくなります.成果を出さねば研究費が稼げず,学生も集まらず,厄介なことになるため,億劫になるというのも現実ではないかと思います.

それ以上に,何もアイデアを出せない自分に愕然とする可能性が高いです.助教といった立場では,世の中の動向や,自分のバックグラウンド,または上司である教授から基本的なアイデアを引き継いでも問題はないですが,教授までに上がると,自分のバックグラウンドが命です.ところが「1つの発見」を食い潰すと,バックグラウンドがスカスカになるので,中途半端なアイデアに翻弄されることになるかもしれません.

 

ということを,30代では,あまり認識しません,たぶん.遠藤も30代ですが,加齢については強く意識しています.

しかし多くは10年後も今と同じだろうと考えるのです.「加齢による衰え」を加味せずに楽観的に構えているかと思います.教授に昇進してから独自性を発揮すれば良い,という希望があるのですが,加齢をサポートする試行錯誤が30代で続いていなければ,経験による克服が困難となるでしょう.

試行錯誤は,すなわちストレスです.そのため,途中でストレスから解放されたくなります.

 

1)成果を多く出さねばならないため,成果を出しやすい既に芽の出たテーマに傾倒してしまう,2)加齢による衰えを考慮しないのでマイナーチェンジを繰り返してしまう,まずは2つの壁が出ました.

 

3. 研究費

一貫性,インパクト,成果がなければ,十分な研究費が得られません.研究費がなければ研究できません.一般的な若手Bや基盤Cは年間で150万ほどが直接経費です.

15人程度の学生を抱えると,有機化学の研究室のランニングコストは800〜1000万くらいでしょうか.

ならば教授になってから稼げば良い,と考えている人はいませんか?

しかし,稼げないのに早期に教授になるのは難しいのです.大学が研究室の運営を任せる,信頼性に乏しいからでしょう.

 

大学からの予算は,だいたい1講座あたり200〜300万くらい,だろうかと思います.大学に依存します.

つまり600万は1人で外部研究費を確保したい. その実績があったほうが,昇進しやすい.すると助教か准教授までに,600万くらいを外部から獲得できるようになりたい.

この金額は,若手Aか基盤Bです.この採択は,なかなか困難です.

 

すると「講座制」が続きます.研究室に所属する3人の教員が,若手Bと基盤Cを獲得すると,500万ほどになります.これなら何とかなりそうです.

ただ,論文が少しは出ていないと,若手Bも基盤Cも採択にはならないかと思います.そのため,保険をかけて,自分の経験が多い既出研究を延々と続けてしまう.

 

講座制に浸ってしまうと,研究費を多く稼がなくても成立してしまうケースが出てしまいます.しかしそれでは,研究レベルの高い大学や,独立ポジションに異動することができません.そうなると,講座制のボスが定年で退職するまで待たねばなりません.結果的に,教授への昇進は50代になってしまう可能性がありますし,どこからか教授が入ってきてしまい昇進できなくなります.

 

講座制の是非は難しいですね.遠藤は,今のところ,研究費の獲得は,それなりにうまくいっています.だから,講座制は消すべき,ということを言いたくなるのですが,一方で,研究費が理由不明で獲得できない場合は講座制の恩恵を受けることにもなります.

自力で研究室を運営する研究費を獲得する,これが一流の基本だと思われます.しかし,運の要素も研究費獲得には含まれています…

 

1)成果を多く出さねばならないため,成果を出しやすい既に芽の出たテーマに傾倒してしまう,2)加齢による衰えを考慮しないのでマイナーチェンジを繰り返してしまう,3)研究費のために冒険できない,という3つがそろい,無難な研究の完成です.

さらに言えば,研究者といっても色々です.第一線で研究をするのは,精神的にも非常に厳しい.そこで4)ストレスに耐えられない,を追加しましょう.

 

 

遠藤の場合は「馬力」がないのですが,インパクトで補っています.現状は数で押すことは無理なので,研究のインパクトが命です.表に出ていないインパクトにより研究費を獲得し,数少ないながら成果を着実に上げ,それによって早々に条件を満たしていかねばなりません.

すると,1つのテーマに全力を注ぎ込むことは,まだ不可能なのです.

 

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