誰かの論文審査中ですが…

遠藤自身が論文を出していない状況ですが,これから投稿を少しずつ進めるので審査するのも許していただくとして.

審査しています.当然,その論文の内容について細かいことは書きませんが,一般論として書きます.

確か以前も同じようなことが起きました.今回どうするんだろう.指摘を全部ならべて最後はeditorに判断してもらうしかないですけど,データ改訂で時間かなりかかりそう.指摘すべき点が多すぎて今回も疲れる…可能な限りデータを精査してから投稿して欲しいものです.そのほうが結果的に時間かかりません.

遠藤は最初にざっと論文の本文を読みます.それはやめて,最初にSupporting Informationを見るべきかもしれない.いつも,そう思わされる.

今回も論文の本文自体は悪くはないし,そこに書かれている数値データも特に問題はない.これならacceptでも問題ないだろうという空気感は最初にわかります.ただし…

問題はSupporting Informationにあるスペクトルデータ,ならびに数値データとして書き起こした部分ですね.審査するたびに面食らうんですが,なんでこんなに雑なんだろうか,というところを問いたい.

実測結果のスペクトルデータは「指定された化合物を実際に測定したと信じる」のが前提ですが,そのデータを数値化した変換過程に作為的なものを感じます.けっこうな数の論文審査で直面します.

「目的化合物ができている」と信じ込んで帰属しているから起きる現象かもしれません.信じ込んでいるなら当人にとっては捏造ではないわけですが…ここが厄介です.帰属ミスは命取りになることを意識しておかないと.

遠藤も過去に投稿した論文,あと今,投稿して審査に回っている論文を含めて,本当に目的の化合物か自信が持てないときは「別ルートで合成」をするか,データとしては質が良くないものしか得られなくても単結晶X線構造解析をします.それでも微妙なものは残りますけどね…状況証拠的なもので示さざるを得ないものもあります.

論文作成に時間がないんだろうなとは思ったりします.遠藤自身,作成している論文のSupporting Informationに違和感がなくなるまで,かなり時間がかかります.間違いがないか不安です.

そういう不安を破壊するレベルで不可解なスペクトルデータを堂々と貼付けてくる方々が少なくないです.無名の方々ならまだしも,わりと名の知れている,または既に関連論文を発表している方々でも同じこと.

基本が守られていないというか,あるべきものがないことも.目をつぶって帰属したのかというデータの数々.

・1H NMRでは明らかな不純物がある(少しあるくらいなら,やむを得ません).

・1H NMRの積分比が明らかにおかしい.1になるべきピークの積分比が0.7とか0.3とかでも気にせずゴリ押し.異性体混合物でさえなさそうなのに,完全スルーされている.

・13C NMRでは,かなりの強度の謎ピークがある.

・拾ってあるピークの数が常識外に理論値より多いのに気にしない.

・1H NMRでも,13C NMRでも,19Fとのカップリングをまったく見ていないのに堂々と数値データ化している.ピークの数が多すぎるなーとか思わないのだろうか…

・特定官能基由来のピークがないのに堂々と帰属されている.

・高分解質量分析の結果が理論値と全部一致している.これはさすがに珍しいです.

このあたりは典型的です.

学生が,まったく意識できずに帰属してしまった場合は,それは仕方ないのかなぁとも思うのですが…研究室のボスがスペクトルデータを一切見てないことがよくあります.そこが最後の関門にならねばならないのですが.

助教がいるなら,なお関門が二段になるのに,機能していない.

これが「名の知れた研究室」「既に論文を見かける著者の研究室」から出てきている事実を考えると,世界的に怪しいデータが飛び交っていることになります.

自戒の意味をこめて書きましたが,いや本当に自分も気をつけたいのですけど,見逃している可能性は否定できない.そのための審査,ということになるでしょうか…今,審査中の我々の論文も,少しだけ懸念点があるけど内容の本質には関係ないものだから大丈夫のはず.関係なくrejectの可能性ありますけどねー内容的に.

とにかく,今回の審査の指摘を書き連ねなければならないわけです.基本的にreject絡みになりそうなときは,審査結果をそれなりに書き込むことになります.

つまりacceptにするときは楽か?…いや,the reviewer recommends publication…で責任はついてまわるとも言えます.落としたほうが良いよーというときは,まだ内輪もめの段階.acceptにすると公に出るので,その後に何か発覚すると焦りますね審査員,きっと.