研究室配属とキャリア形成

有機化学に興味がある方は,可能な限り「卒研配属」か「修士1年での配属」を試みたほうが良いです.

理由があります.

あとで専門領域の変更も可能,というのは,嘘ではありませんが,有機化学については後から参入するのが難しい領域です.

不思議だと思うかもしれませんが,有機化学は「泥臭い」とか色々言われるように,この「泥」を美しくこねるには,かなりの熟達した技術が必要です.
絵に描いた餅なら他領域からでも何とでもなり,絵に描いた餅を具現化していくことは有機化学を専門にしていても難しい.

たとえば「装置の開発」の基本パーツ設計と組み立てのようには,有機分子などは動いてくれません.
実験についても,かなり身につけることが多いのです.

実験だけで以下の項目を,それぞれ別個に,かつそれぞれ絡ませながら,身につけることが色々とあります.
これは研究の内容と関係ないのですよね…装置の設定が終われば装置が自動的に動いて結果を待つだけではない.

・実験作業の段取り
・反応容器の扱い方
・有機溶媒の扱い方
・試薬の扱い方
・化合物の扱い方
・反応停止法
・反応処理法
・精製法
・解析法
・その他いろいろ

これらを熟達するには時間がかかります.
遠藤が「実験うまくなったなぁと実感したのは博士課程2年あたり」でした.
それまでは納得できないことが多かった.

同様にして「世界中で実施されている研究の概要を理解できてきている」と感じたのは博士課程3年あたり.
修士1年からネットで論文を読みやすい環境になったので,そこから毎日延々と読みあさり続けて5年弱.

とにかく時間がかかります.

しかし,有機化学を専攻した博士が他の領域に飛び込むのは意外と難しくないらしいです.
理由はよくわからないのですが.色々な領域に進んだ知り合いがいます…

逆に,他の領域から有機化学に参入してきた人は,記憶にほぼない.

まぁいずれにせよ「有機化学者を育てるのは大変に手間かかる」のは間違いないです.
気にかかっている方は,まず有機をかじり,あとで他領域への進出を試みても良いかな,という感覚で,研究室配属してみてはいかがでしょう.