3. 博士研究員
ようやくまとめましたが…色々と抜けている気もします.
博士研究員 = ポスドク.
どのようなイメージでしょうか?
博士研究員とは「博士号を持つ研究員」という,そのまんまの中身です.他には何も定義がない.
基本的には正社員という扱いではなく,任期は1〜3年程度でしょうか.プロジェクトの進行具合や状況により,任期も変わります.
1. なぜ博士研究員になるのか?
不思議ですね.苦労して博士号を得たのに,正社員ではない,研究プロジェクトの手駒として短期間,給与を受け取り実験をする.先も見えないので不安しかない.
博士号を得るために,ただでさえ年齢を重ねて出費もかさんだにもかかわらず,さらに不定期職なのです.
こういうのを見ると「博士課程に進学なんて考えられない」となるかもしれない.
いえ,この業界では,博士研究員を経由すること自体は,特に何もおかしくない常識的なものなのです.
「え?博士研究員?」と,斜めに見る方が見識を疑われます.
ただし,当然,問題点もあります.
その問題点を認識する前に「なぜ博士研究員になったのか」という動機について考えてみましょう.
1-1. 実は民間企業に就職したかったが…
これは,好ましくない事例です.
つまり,博士となったら民間企業を目指していたけど,就職先がなかったというケースです.
経済状況にも依存するので,博士として就職確実とは言えません.
言えませんが,研究職にこだわらなければ,実は,いろいろな業種で博士号が使えることには,あとで気づいたりします.
あくまで「博士号を得るくらいのキャリアがあります」という証として.
いずれにせよ「研究職にこだわる」という時,経済状況が芳しくなく,あえなく就職先が見当たらない時,やむなく「時間稼ぎ」することもあります.
となると,博士研究員として働きながら,民間企業での就職を目指すわけですが,この時,注意点があります.
民間企業に就職したいなら「博士研究員として日本国外での経験を積んだ方が箔が付く」とか考えない方が良いです.
実際は,日本国内で就職したければ,海外での博士研究員は,回避すべきでしょう.
これは「就職活動で日本と往復せねばならない」という理由がもっともらしいですが,経験談を聞く限り,とにかく内定が得られづらい傾向にあったそうです.
理由は明確とは言えません.
では,博士研究員として働いた国で就職すれば良いのでは?とか考えるかもしれませんが,無駄な努力はやめた方が無難でしょう.
例えばアメリカで就職しようとすると,中国人インド人など大量の競合者に衝突します.
また,native並みに英会話能力がないと採用されづらい,という話を聞きます.
日本で就職できなかったから,という安易な理由で博士研究員になったのに,次のハードルを自ら高くする必要性は,一切,感じませんね…
つまり,こういう幻想は抱くべきではない.
「日本では評価されなかったけどアメリカではいけるのでは」
んなわけない,とは言いませんが…現実はこうなる.
「日本よりアメリカのほうが競合者が世界規模になり,膨大な競合者の中に埋もれる」
いずれにせよ「あわよくば大学教員」ということは,まず考えない方が良いです.
可能性は無ではありませんけど.
1-2. 大学教員を目指しているが…
助教になれなかった.
このパターンは少なくありません.
しかし,重要なことを書きます.
バイオ系はやむを得ませんが,有機化学の場合,大学教員を目指しているなら,博士研究員は1年まで.
1年後には,助教に着任しているつもりで動く必要があります.
どういう展開でも構いません.1年後,助教になれないと,ちょっと厳しいです.最大で2年が妥当.
なんで2年以降では難しいのでしょうか.
下から突き上げを食らうからです.
2年後に助教,このあたりが境目です.
3年後までになると,後から後から,有能な「たまたま助教になれなかった博士」が出てきます.
同世代と競合して勝てないのに,若手と競合して勝てるか?ということになる.
よって,1年で助教,この覚悟がなければ,大学教員を目指そうと考えないほうが良いでしょう.
ただし縁があれば,その限りでもない…ないけど,運任せで人生を左右する決断をしないほうが後の為.
運で助教に着任しても,講師,准教授…と上がれるかどうか,怪しい.
1-3. 武者修行
いるのですよ,こういう人が.なぜ助教にならなかったのですかと問いかけたくなる人です.
博士研究員を1年,2年…と経過するに従い競合者が増えるのは当然としても「あえてすぐに助教にならなかった人」が出てきます.
そんな彼らは非常に優秀で「やむなく博士研究員になった人」とでは,戦いにならないのです.
武者修行の理由は様々です.
博士課程での業績からして引く手数多という人で,武者修行に出るようなら,特に言うことはありません.
ありませんが,期限はやはり1年だと思ったほうが良いのでは.
1-4. 本当に時間稼ぎ
稀にいます.
学生の頃に在籍した研究室の助教に着任するために,暫定的に博士研究員として居残るケースです.
特に言うことはありません.お幸せに.
遠藤は,自分の研究室とは関係のない外部から,助教を採用したいところですね…
とんでもない逸材であれば,自分の研究室出身者でも採用しますが,どうだろう?
2. 博士研究員をどのように過ごすか
基本は,博士課程の頃と,やることは同じです.
ただ,1年程度の任期であることも多いため,腰を据えて研究をするには時間がなく,短期間で済むような研究テーマを与えられることが多いです.
遠藤の場合は,そうではありませんでしたが.
「1から立ち上げ」というテーマになることは珍しいです.
そのため,改めて実力を磨くという状況にはない,と考えるべき.
それに,たかが1年で何ができるのか,ということです.
多くは,論文を出すために馬力が必要というケースで,博士研究員が利用される気はします.
博士 = 情報を吐き出す生き物,ということが前提にあり,博士研究員になってから勉強しようという心構えでは困ります.ここは断言したい.
ただ,博士研究員の期間,学ぶものはない,ということではありません.
現実的には「博士研究員は腰掛け」程度なのです.
1年ほど過ごして貢献すれば十分ですが,雇用する側からすると2年くらいは研究室の一員として,実験に取り組んで欲しいというのが実際かもしれない.
でも,博士研究員が大学教員のポジションを得て,喜ばしく思わない人は,普通はいないと思いますが…
一方で,博士研究員を専業とする猛者も日本の外にはいます.
50歳になっても博士研究員として渡り歩くという…残念ながら日本では考えられないケースです.
3. 給与
どれくらいでしょうか.
研究室から支給する場合は,総額で年300〜350万程度では.
これはプロジェクトなどによりけりで,恵まれている場合は600万くらいまで.こんなのは珍しいのですが.
ないことはない.
いや,もっと高いケースもあったような…
JSPSの特別研究員の制度を利用すれば,600万のレベルはSPDくらいかな?最近の情報を見ていないので,明確ではないです.
博士号を得て総額350万ということで,生活には余裕なし.
だけど正直なところ,実験しかしないので.遠藤も,延々と実験していただけで,特別に何か浪費したなんてことはありません.
助教に採用されれば引越し代金は基本的に自腹なので,貯金するしかないのが実態です.
後述しますが,助教の初年度の給与なんて,大したことないですからね…
博士研究員より安かったりしますよ.
日本の大学教員は,給料が安い.
以前,どこかで聞いた時,中国の助教で1000万を越えていた気がするのですが,記憶違いだったかもしれない…けど、とにかく日本の教員の給与は高くないのは間違いなし.
熾烈な争いを勝ち抜いた割に,なんとも言えない.
特に助教時代は割りにあわないのは間違いないので,その点は,よく考えておくべきでしょう…
遠藤は,助教着任に関して,事務的に,異常事態が発生し,理解不能な扱いを受けました.
当時のボスなど研究室は無関係なのですが,着任前後に関するやり取りで,ものすごい横柄な態度が垣間見え,愕然とした記憶があります.
給料がどうだと言うことで,大学教員を目指したわけではないので,これは今になって振り返ってみると,と言うレベルです.
詳細を書くと問題になるので,口の固い方には個人的に話をしても良いですが…
ラグビーの話題を思い出していただければ,なんとなく推察は可能でしょう.
ただ,個人的に思うのは,おそらく「個人」の資質の問題で,全体像ではないでしょう.
4. 日本国内と国外での博士研究員
どちらが良いか?
どちらがキャリアにプラスに働くか?
気になるところです.
なんとなく海外の方が良いと考えていないでしょうか.
個人的な感覚では「好きにすれば良い」です.
英語などの会話能力を磨くとかいう意味では海外に軍配が上がりますが,世界の研究者と切磋琢磨するとかいう意識は,意味がないと思います.
なぜか?
博士号を得るような人間が、今さら「世界の研究者と切磋琢磨」とか言うの?
こんな意識では,外面ばかり気にしているだけで中身なし.
研究者としての素養の1つとして
「研究に対する意識などは,自己完結している」
ことが挙げられます.
つまり「自分の外における環境を言い訳にするな」ということです.
動機を外に求めるものではない.
以下が気になる人は,研究者に向いていないので,違う方向を模索した方が良い.
1. 研究室が狭いので実験する気にならない.
2. 研究費が潤沢ではないので実験しづらい.
3. 周囲の人間の熱意がないので自分も気力が出ない.
1と2は,まだ仕方ないかもしれないのですが,3はありえない.
周囲がどう行動するかなんて知ったことではない!
「日本の外の環境の方が見識が広がる」という発想も今更で貧弱な動機です.
極論では,そんな見識はいらないのです.
自分が研究を進めるに当たり必要な情報ではない.
それに,自分が学生の頃に在籍した研究室よりも,インパクトのある研究室が,どれくらい他にあるかを考えた方が良いです.
幸い?にして,遠藤は,EN研を上回るインパクトについて,耳にしたことがないし,実体験もありません.
あの頃の自分の行動パターンを見ていると,あれ以上は不可能ではないけど,精神的にも肉体的にも病むレベルであったとは思います.
よって,それ以上のものを求めようと考えたことがありません.
理科大で同様のことをしてしまうと,年1人くらいしか配属希望がないのでは…
博士号を得たら,やることは,どちらかというと「考えること」であって「実験の手数」などではないのです,本来は.
以上,博士研究員までやって来て,グダグダ管を巻いている暇などないです.
言い訳しても良いけど,行動に移せ.これだけですね.
次は,ついに助教.