17. B B C Si K Pd

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“Silver(I) Oxide-Promoted Cross-Coupling Reaction of (Diborylmethyl)trimethylsilane”

Endo, K.*; Kurosawa, F.; Ukaji, Y.

Chem. Lett. 201342, 13631365.

 

とりあえず,当初から検討していた反応も進行したということで,だいぶ収束しつつあるジボリルメタン系.化合物自体が複雑化する一方なので対策は必要だなぁという昨今.個人的には,複雑化した分子設計は「末期症状」の現れと思っている.すなわち,多くの有機合成反応は,もう末期症状に突入していることになる.

ただ,ジボリルメタン系は,最初の論文が出た時点で「やりたかったこと」は終わってしまった.本当は立体選択的な反応まで開発する予定であったが,我々が発表して1年後に,立体選択的,という付加価値だけでネタを奪われてしまったため,その当時の時点で若干,気力は失せている.この手の略奪は絶対にやってはいけない.などと言っていると,元ネタなど奪って当たり前というスタイルの勢いに押されてしまう.とにかくデモンストレーションは終わったので,現在検討中のものを論文にした後は好きにしてくれとも思う.そろそろ,反応設計の戦略を講演などで出しても問題ないだろうか…という感覚はしている.

今回の論文では,ジボリルメタンのメチレン部位にトリメチルシリル基を導入したものを用いている.この化合物を用いたカップリングを随分と前から試していたが,反応が一切進行しなかった.その理由は,単純に,立体的な嵩高さと思われる.そうこうしているうちに,金沢に異動することになり,混沌としているなかで,実験者がピックアップしてきたものが,酸化銀の効果だった.これまでの反応条件に対して,酸化銀を添加すると,ジボリルメチルトリメチルシランを用いるカップリングが劇的に促進されるという結果だ.

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酸化銀はクロスカップリング反応の添加剤として用いられることが少なくない.しかし,その効果が何かは,不明瞭だった.一般的には,Pdが酸化的付加した中間体の,Pd-X結合を銀が活性化するというものであった.これにより,通常は進行しづらいパターンのトランスメタル化が促進されるというものである.今回も,その活性化効果があるかもしれないが,トランスメタル化に鍵があるならば,ジボリルメチルトリメチルシランのトランスメタル化の直前の段階,KOHによるボレート塩発生を確認する必要がある.

NMRで測定すると,ジボリルメチルトリメチルシランにKOHを加えても,酸化銀を加えても,ボレート由来と思われるピークは一切検出されないことがわかった.つまり,嵩高すぎてKOHと反応していないということである.カップリングが進行する以上,トランスメタル化が起きている.トランスメタル化が起きるということは,ボレート塩が発生している,という考えは砕けた.

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では,ボレート塩を経由せずに,ArPdXとトランスメタル化するのかというと,あまり現実的ではない.唯一,X = OHのときに,KOHなどの塩基を加えずにトランスメタル化することが知られている.つまりKOHは不要という可能性があった.さて,KOHを加えずに,酸化銀を添加剤として反応させると,加熱条件下,中程度の収率で生成物を与えた.与えたが,室温では反応は進行しない.つまり,加熱条件下で,ArPd(OH)が発生するから良いのかもしれない.

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ArPd(OH)の発生条件は簡単であったりする.特にヨウ化物を用いると,反応溶液中の微量の水によって加熱条件下で,あっさりArPdIはArPd(OH)に変換されるという.ならば,ArIを用いれば,酸化銀も不要という可能性が出てきた.ところが,そんなことはなかった.ArIを用いると,室温でも加熱でも,KOHを加えても加えなくても,酸化銀を加えても加えなくても,一切,目的生成物が得られない.ちなみにArClを用いても同様だった.ということは,ArPd(OH)は,むしろ駄目,という可能性が出てくる.

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考えられる残りの候補は,協奏的なトランスメタル化である…これは過去に檜山カップリングにて図解されていた.図解されているものの,証拠はない.証拠はないが,どうやっても観測することはできそうにない.このトランスメタル化は,ジボリルメチルトリメチルシラン,ArPdBr,酸化銀が6中心遷移状態を経て進行するというものだ.本当か?という疑問はさておき,もうこれくらいしか考える余地がない.ということで,推定反応機構は下図のようになる.

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しかし投稿してみると「Agの効果は既に知られているから,たいしたことない」と言われるに至る.いや,Ag添加の有無で,進行するものが進行するように,という例は知られていないので,そのあたりを汲み取ってくれと言いたかったものである.かなり複雑で理解不能なギミックが働いているのだなぁと感心したものだが,それは我々だけであったという.

ジボリルメタンに直結するものは,次回の論文で終わり.これは比較的簡単な化合物であり,だから食いつかれて散々に荒らされたので,これ以上の発展に興味を失ってしまった.色々と粘って検討を続ければ,我々ならではの独自性が,さらに出てくるとは思うのだが,そんなモチベーションは消えてしまった.

他人の研究にちょっかいを出すと,ただ潰して終わるだけに過ぎず,見事にコンセプトを自分の研究に活かしたつもりになっても何も残らない.本質的なコンセプトに価値を見出しているわけではないためだ.単に「新規性の高い反応が進行した」からネタとして使っただけなのだろう.元のコンセプトを遂行する人間は醒めてしまって追及するモチベーションは消えるし,手を出した人間も,たいしたこと考えていないので,どうせそれ以上,何か見出せるとも思えない.科学の発展の一助としているのか,もしくは歯止めを効かせているのか,後者の意味合いも同時に存在するので厄介な問題だ.

そのあたりを若い世代の方々は,よく考えて,独自の研究開発に取り組んで欲しいものである.教授の絡んでいない独自ネタに取り組んでいる若手は現在,有名無名を問わずに,あまりいない,という現実は極めて重要な警鐘を鳴らしている…とか,個人的に思っているだけで実際は問題ないのかもしれない.

 

次回はシクロプロペン系を予定.

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